ドラマ版もやしもんが破天荒すぎてコメントに困る

ノイタミナ枠で放送中のドラマもやしもんが混沌としています。女装ヒロインの結城蛍が、性転換をしたガチホモ筋肉男だったのです。原作である漫画版では、女に間違えられる優男が女装したという設定です。彼が女装した理由は曖昧になっています。ドラマ版はそこをはっきりとさせてしまいました。ガチムチ筋肉男(格闘家の小比類巻太信)が幼なじみの男の沢木を好きになる、結果(おそらく)性転換をして沢木と一夜を共にしてしまったのです。6話の脚本は、もやしもん作者の石川雅之さん直々の書き下ろしです。作者公認の原作破壊といえます。

作者公式サイト
ドラマ6話 7話は僕が脚本を担当させていただきました 
http://mmmasayuki.cocolog-nifty.com/blog/2010/06/post-a40b.html
メジャー作品で、女装ヒロインが本当に性転換した例はあまりありません。思い浮かぶのはこち亀のマリアくらいでしょうか。



・今回の描写は原作漫画も破壊する?
この件の本当の問題はガチホモ云々とは別にあります。原作漫画の物語が壊れてしまうという点です。ヒロイン結城蛍が女装した理由と、主人公沢木を性的な意味で好きなのかという二点は、原作もやしもんの物語を進める重要な推進剤です。つまり、読者は結城蛍の真意が知りたいから、作品の先が読みたいのです。石川雅之さんは、ドラマ版でその理由を明かしてしまいました。もちろん、漫画とドラマは別というのが作者の言い分でしょう。ですが、今回はそれが必ずしも通らない部分があります。それは、もやしもんという漫画は、読者の興味をひくポイントが極端に少ないからです。その貴重なアピールポイントであった結城蛍の女装の謎を、今回のドラマで潰してしまったのです。


・最近のもやしもんはつまらない?
フランス編以降の漫画もやしもんはつまらない、パワーダウンしたという意見をよく聞きます。彼らがつまらないと感じる理由はひとつ、本編が先に進まないからです。フランス編までは、メインの物語は大きく動いていました。結城蛍の休学と女装、武藤葵のUFO研との決別、沢木と及川の接近、長谷川と美里の和解。キャラ同士の人間関係が大きく動いています。ですが、フランス編以降は人間関係が固定化されたままです。

読者は、変化を物語の進行と認識します。キャラ同士の人間関係か、社会との関わりが変わることにより、物語が進んだなと思うのです。主人公がヒロインとくっつく(人間関係の変化)、主人公が勇者になる(社会との関わり方の変化)、という例が分かりやすいでしょう。フランス編以降のもやしもんは、変化がなく物語が進まないのでつまらないと感じるのです。では、なぜそんなことになったのでしょうか。

・大団円を迎えてしまった漫画もやしもん
漫画もやしもんは、既にキャラが抱える問題をほぼ解決し、大団円を迎えてしまったのです。

沢木直保 
 結城蛍とくっつく
 大学生活での目標を見つける

長谷川遥
 親にしかれた人生のレールから自立する
 美里と和解する

武藤葵
 逃避先であったUFO研から自立する

このように、フランス編まででメインキャラが抱える問題をほぼ全て解決してしまったのです。沢木は主役ですが、現在は物語の進行に寄与していません。それは、彼がすべての問題を解決してしまったからです。いまのもやしもんは主役というメインエンジンが停止し、樹慶蔵教授の謎と結城蛍の女装の謎という二つのサブエンジンだけで飛んでる飛行機みたいなものです。

ここで当初のドラマの問題に戻ります。原作者である石川雅之さんが、ドラマで結城蛍の女装の理由を書いてしまいました。それは、数少ないサブエンジンを半壊状態にしたのと同じです。物語の謎を、別の場所で明かしてしまったのです。なーんだと読者に思われてしまうでしょう。


・転職をしたもやしもん
ですが、いまのもやしもんも面白いという層が根強くいるのも事実です。なぜでしょうか。それは、もやしもんが日常系漫画に変身したからです。大学研究室系漫画の先輩に動物のお医者さんがあります。あれは、キャラの人間関係は変化しません。サザエさんのように、確立したキャラの行動を愛でる日常系漫画です。もやしもんは、ストーリー系漫画から日常系漫画へとジョブチェンジをしています。つまり、もやしもんの支持層は、日常系漫画に変わったという事実を受け入れている人たちなのです。いいかえると、物語の進展に期待をせず、キャラの面白さを楽しんでいるのです。

石川雅之さんが、ストーリー漫画との決別という点を考えて今回のドラマの脚本を書いたのかはわかりません。ですが、ストーリ支持の読者が離れ、ドラマから入る日常系の読者が増えることにより、結果としてその傾向がさらに強まっていきそうです。